趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

世の中はグレーでできている

「アンケート」ウォッチング 2024年2月2日

今回のネタはこちらです。
www.city.fujiyoshida.yamanashi.jp
政治的な意思決定にかかわるアンケートはあまり取り上げたくないのですが、この調査は、設問の提示の仕方、中立選択肢の有無といった、興味深い話題につながりそうですので、取り上げてみます。
この記事は、上記の記事で取り上げている話題(「富士山登山鉄道構想」)について、賛成あるいは反対の意見を表明するものではありません。

県知事見解を読む

この調査について、山梨県知事が記者会見で言及しています。次の記事です。
newsdig.tbs.co.jp
この記事をもとに、知事の意見のうち気になる部分を取り上げると、次のようになると思います。

  1. 富士吉田市は構想に反対であることを明示して調査しており、これは公正ではない。
  2. 構想への反対意見を記述している一方、構想は概略のみ示されていて、これも公正とはいえない。
  3. 調査対象の抽出方法や属性が明らかでない。
  4. 組織票が排除された形跡がない。

「組織票の排除」について

上記の4点の内、4については検討しません。「組織票」といったものがあるのかどうか私にはわかりませんし、仮にあったとして、それを「排除」するのが正当なのか、あるいはどのように「排除」するのかについて、私は知識がありません。また、仮に「組織票の排除」が行われたとして、それがどのような「形跡」を残すのかも、私にはわかりません。

サンプル抽出について

3について考えると、サンプルをどのように抽出したのかはわかりませんので、これについて、知事の指摘は正しいと思います。回答者属性については、結果を示したPDFに示されていますので、そのうえで知事からの批判があれば批判されればよいと思います。
ただし、少々気になる点があります。次の記事です。
www.yomiuri.co.jp
これによると、次の2つのことが分かります。
(a)ふるさと納税寄付者にはQRコード(アンケートページへアクセスできるコードであると解釈できる)を送付している。
(b)問い合わせが多いことから調査期間を延長している。
つまり、ホームページにアンケートページを設けて、回答したい人が任意に回答できるように設定していると思われますから、サンプル抽出が行われているようには見えません。また、上記(a)から、特定の人(ふるさと納税寄付者)にのみ回答を促すような働きかけをしており、これは公正な手続きとは言えません。
さらに、(b)も適切な対処ではありません。記事に示された「途中経過」と、PDFで提供された最終結果とは、回答者数に約1500人の違いがありますが、賛否の割合としては大きな違いがあるようには見えません。
とはいえ、公正な調査のためには、無作為にサンプルが抽出されるように配慮することと、調査開始時の計画を変更しないことは、どちらも重要です。これらが守られていないことは問題だと思います。

意見の明示について

次に、知事の意見1.2.について考えます。幸い、アンケートページが残っていますので(回答は締め切られています)、それを見てみましょう。
fujisanfujisan.hp.peraichi.com
このページでは、まず「山梨県が公表している「富士山登山鉄道構想」概要」として3つの点が紹介されていて、クリックするとさらに3~4点の説明が箇条書きで提示されます。
次に「富士吉田市の考え方」として、「富士吉田市山梨県が掲げる「富士山登山鉄道構想」に反対しています。」と明記したうえで、その理由3点を、環境、自然、観光の3つの点から、写真入りで説明しています。これを見ると確かに、「構想」の説明は短く(かつ、クリックしないと箇条書きの説明は表示されず)、富士吉田市の考え方」は写真入りで文章が書かれていて、「扱いに差があるじゃないか?」という、不満(?)ももっともだと思います。
さらに、富士吉田市として「反対しています」と明記されていることも事実です。このように意見表明をすれば、回答者の意見は「反対」に傾くことは十分にあり得ることですから、知事の意見は正当なものだといえます。
ただし、富士吉田市として反対であるという意見が表明されていますから、「反対が多数であった」という結果を、調査実施者としては期待していたのかもしれません。そのような願いをもつことは、人間としてよくわかります。ただし、そうした「気持ちの問題」と、アンケート調査の「公正さ」とは、分けて考えたいのです。

「あなたはどっち!?」と聞かれて

さて、最後になりますが、アンケートページの冒頭に、「あなたはどっち!?」と手書き文字で書かれていたのにお気づきでしょうか。
わたしたちは、「どっち!?」と尋ねられると、つい「どちらかを選ばなければいけない」と考えがちです。さらに、「富士山登山鉄道構想」を進めるのか、中止するのか、という判断をいつかしなければならない、今意見を言わなければ!という切迫感を覚えがちです。
しかし、以前にも書きましたが、「賛成か反対か」と問われても、「この部分は賛成だがここは同意できない」とか、「考え方にはおおむね賛成だが、このやり方は違う」とか、人の意見には濃淡があるのが普通です。タイトルにした「世の中はグレーでできている」とはそういう意味です。そういう、細かい意見の際に配慮した意見聴取を行っていくのが大事なのではないかと思うのです。そのためには、「アンケート」という手法はかなり大雑把な方法で、(設問文の表現なども含めて)適切な方法かどうかは意見が分かれるでしょう。
加えて、この「アンケート」では、中立項目がありません。「富士山登山鉄道構想」に対して、「賛成、どちらかといえば賛成、どちらかといえば反対、反対」の4つの選択肢から選ぶようになっているようです。このとき、さきほど仮定したような、細かい意見の違いをもった人たちはどう答えるでしょうか。そこに、富士吉田市としては反対している、という意見表明はどのように影響するでしょうか。難しいですね。