趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

何のためにグラフを描くのか

「アンケート」ウォッチング 2024年1月31日

今回のネタはこちらです。
jdsa-net.org
これを見ながら、グラフ表現、とりわけ円グラフについて少し考えてみたいと思います。

色を分けるのはなぜか

2つ目のグラフ「【マイボトルを使用している方に伺います】マイボトルに入れている飲み物を教えてください」を見てみましょう。
「マイボトルを使用している方に」と断りがあるにも関わらず、グラフの中には「マイボトルを使用していない」という選択肢が残っていて、しかも、その割合22.3%は、問1で「マイボトルを使用していない」と回答した割合24.3%よりも少いという謎については、今回はスルーしています。その上で、「どうして2色に分けてあるん?」という疑問について考えます。
円グラフや帯グラフで色分けをするのは、そうしたほうが「見やすい」からでしょう。問1の「使用している」と「使用していない」は、通常、同じ色にはしません。
では、問2の円グラフは、色分けをすることで見やすくなっているのでしょうか?
選択率の高いものを目立たせるために色を変えている? ちがいます。「マイボトルを使用していない」や「乳酸菌飲料」を明るい色にしている説明が付きません。
単に交互に色を変えている? おそらくそうだろうと思います。次の問3もそのようになっています。しかし、それはグラフの見やすさ、情報の伝わりやすいさとは無関係のことではありませんか?

割合が小さい選択肢の扱い

色分けに意味があるのか? という疑問をかかえたまま問4のグラフを見てみましょう。これ、見やすいですか? 情報が伝わりやすいですか?
私は最初、左上に書かれている「2.2%、2.9%」の意味がわかりませんでした。みなさんはすぐに分かりましたか?
これ、円グラフで割合の小さい部分が何%であるのかを、「グリーンは2.2%、グレーは2.9%」と示していると思われます。でも、みなさん。こういうの、見たことありますか? 私は初めて見た気がします。
円グラフの扇形の領域から引き出し線を出して、「ここは2.2%」という書き方をしているのは良くみます。Excelは特に指定しないと(割合の小さい部分については)そういう描き方をしてきますね。
今回のネタにした報告のどこがわかりにくいかというと、

  • 注釈の線の色と円グラフの扇形の色を照合する。
  • そのうえで、その領域が何%であるかを読み取る。
  • 同じく、円グラフの領域の色と、下の凡例の色とを照合する。
  • そのうえで、どの選択肢が何%かを読み取る。

などのような、いくつもの段階を経る必要があることです。
しかも、選択肢の2つ目と3つ目は色がとても似ているため、「2つ目はこれ、3つ目はこれ」と確認することも(私には)必要でした。
どうして、あえて認知負荷を高めるようなグラフにしているのか、私には理解できません。グラフというのは、認知負荷を小さくし、情報を読み取りやすく、伝わりやすくするために描くものだと思うからです。
というわけで、いちおう代案らしきものを示しておきます。どちらが認知負荷が少ないか、見比べてみてください。

グレーの意味付け

ただし、この記事がグラフの色について何も考えていないかというとそうではありません。続く問5以降の円グラフを見るとよくわかるのですが、設問に対する否定的な回答、あるいは無回答に対して、一貫してグレーを用いています。それがわかってくると、ちょっとグラフが見やすくなってきます。だからこそ、上で書いたような認知負荷を低くする工夫をなぜしないのかが、疑問なのです。

アンケートタイトルはどこにいったのか

最後になりましたが、この記事のタイトルに注目します。タイトルは「水分補給に関するアンケート結果(2023年)」です。違和感ありませんか?
問1にもどってみると、「マイボトルを使用していますか」を最初にたずねています。しかも、その結果に対するコメントは、「回答者の4人のうち3人は、エコに関心がある」です。「マイボトルの使用」すなわち「エコ」という解釈です。この解釈についてあれこれ言うつもりはありませんが、調査者は、明らかに、「飲料をその都度買うのではなく、マイボトルを持ち歩いたり、ウォーターサーバーを導入することがエコにつながる”良い事”である」と考えているように見えるのです。
だったら、「水分補給について」みたいな、ぼやっとしたタイトルではなく(だって、健康のために水分補給しましょうね、みたいな主張に使っているわけではないのでしょう?)、少なくとも「マイボトルの利用に関する意識調査」みたいにすればよいと思うのです。



というわけでいろいろ書いてきましたが、なんだか残念な記事でした。