趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

どのように回答者を集めたらよいのだろう?

「アンケート」ウォッチング 2024年2月4日

今回のネタはこちらです。調査方法、とりわけサンプルの抽出について、考えてみようと思います。
ecnomikata.com
この記事は、2024年問題について何らかの意見を述べるものではありません。

新聞広告という媒体

ここで取り上げた「アンケート」の調査方法は、次のようなものです。

2023年12月26日に朝日新聞に掲載した意見広告の中に、広告を見た方々の意識を聞くアンケート調査の仕組みを組み込み、読者から回答を募集

はい。記事冒頭にこうした情報が書かれていることにはとても好感が持てますし、記事の最後に当該の広告画像が再掲されていることも、とてもよいと思います。
「アンケート調査の仕組みを組み込み」と、意味ありげな言い回しがされていますが、要するに、アンケート調査回答ページへのQRコードを掲載していたということです。くわえて、回答者の中から100名にプレゼントがあることも記載されています。こうしたことも、調査方法の一部ですから、記事に書き込んでほしいと思います。
広告の画像はとても目をひくものになっていますから、朝日新聞の購読者はそれなりにこの広告に注意をはらったかもしれませんね。

回答者属性は?

で、回答者属性ですが、「40歳から59歳:53%、60歳以上:約40%」と書かれています。その直後に、「今回の結果は主に中高年層の意識や考え方を反映したもの」と書いてあり、年齢層の偏りは認識されているようです。
でもね。
そもそも、40歳未満の人々にこの広告は届いていたんでしょうか?

新聞購読者率

公益財団法人 新聞通信調査会「第 13 回メディアに関する全国世論調査(2020年) 」」という調査があります。この調査概要はリンク先からご覧いただきたいのですが、「住民基本台帳からの層化二段無作為抽出」したうえで、調査員による留置き法(回答用紙を回答者に直接とどける方法)で調査が行われています。データサイズは3000ほどですが、回収率が6割を超えているのが目を引きますね。
この調査(リンク先PDF)の30ページに、新聞購読者率の経年変化が、新聞の種類(全国紙、地方紙、ブロック紙)別、年代別に整理されています。朝日新聞のような全国紙の購読者率は、全体では31.1%、全種類の新聞について年代別で見ると、50代以上とそれ未満の年代で大きな開きがありますし、全体的な低下傾向も明らかです。(この調査をもとにした記事がこちらにもあります。
つまり、朝日新聞の紙面でこの広告を見た人たちは、そもそも50代以上に偏っていた可能性が高いと言えます。

新聞を読んでいる時間

50代以上に偏っているといっても、若い世代でも購読者率は30~40%くらいあるのだから、もっと回答者がいてもいいのでは? と思いますよね。
そこで、じゃあ、実際に新聞を読んでいる時間はどれくらいなのかを調べてみます。総務省が行った「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」という調査があります。最新の調査は令和4年11月に実施されていて、住民基本台帳からの「全国125地点にてランダムロケーションクォータサンプリング」、1500人が抽出されています。「クオーターサンプリング」って聞きなれないですが、標本の属性を母集団の構成比率に合わせることを言うようです。単純にいうと、日本は高齢者割合が高いので、標本も高齢者割合を高くしました、ということでしょう。
リンク先PDFの第1章1-1のグラフを見ると、新聞の行動者率(つまり新聞を読んでいる人)は、平日で19.2%、休日で17.7%です。つまり、全年代でも、新聞を読んでいる人は5人に1人もいないという感じですね。
次のページを見ると、新聞の利用時間は平日で6分(ダントツで時間の長い60代でさえ17.7分)、休日では5.6分(同じく15.0分)です。40台未満に至ってはどちらも1分ほどで、スポーツの結果を見たり番組欄を見たりマンガを読んだりしたら終わるかもしれません。(偏見ですねえ、すいません。)

そもそもアクセスできていない

こうしたことからわかるのは、ここで取り上げた「アンケート」は、そもそも40台未満の世代に「届いていない」と思われます。もっと若い人たちの意見を聞きたいと、思っていたかどうかはわかりませんが、もしそうであったとしても、そうした世代に届いていない。アクセスできていない。
この「アンケート」は、Xでもポストされています。


1.8万件の表示(2024年2月4日現在)、と出ていますから、それなりに見られているようですが、残念ながら、QRコードは読み取れません。アンケートが実施されているということも、よくよく見ないとわかりません。調査主体である日本物流団体連合会は、SNSでの広報を行ったのでしょうか?

アクセスできない問題は誰の問題か

しかし、「アクセスできていないじゃないか」ということを、調査主体の問題に帰するのは少々酷でしょう。個人情報保護を優先するために、住民基本台帳からのサンプル抽出は、特定の調査に限られるでしょうから、それ以外の方法でサンプルを集めるしかありません。新聞広告は、多くの人に情報を届けることのできる有効な方法の一つでしょうが、前述のように、その有効性は薄らいでいると言わざるをえません。
どうやったら、意見を聞きたい人にアクセスできるのかは、社会調査、学術調査をふくめて難しい問題です。だからこそ、「どうでもいい”アンケート”」や、「中途半端な”アンケート”まとめ」は、なくなってほしいと思うのです。調査は公正に行われていて、その結果は私たちの生活をよくすることに生かされていく。そうした信頼感が醸成されていってほしいと、私は思っています。