趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

比較的きれいな記述統計の事例

「アンケート」ウォッチング 2024年1月28日

今回のネタはこちらです。
prtimes.jp
「成人の実感」というのが具体的にどのような感覚なのか、とても興味があります。

調査概要

記事の末尾あたりに調査概要があります。少々珍しいと思うのは、「調査方法」のところです。「高校新卒社員研修「ルーキーズクラブ」参加者に対するアンケート回収」と書いてあります。概要の少しあとに、社員研修の様子が写真で紹介されていて、会議室で対面で行われていることがわかります。ということは、参加者が研修終了までに回答フォームにアクセスしたか、あるいは研修終了日に用紙に記入して提出したか、ということだろうと思います。ここは明記されていないのでわかりません。
ただ、いつも思うのですが、こうした情報は最初においてほしいと思います。

複数選択設問の集計方法

さて、少し前に「複数回答」集計について記事を書きました。
almondfish.hatenablog.com
この記事では、「選択数の合計」ではなく、「回答者数」で割って比率を出すのがよい、ということを書きました。今回取り上げた調査では、そのようになっています。棒グラフに示されている比率を単純に合計すると315%ほどになりますから、一人平均で3つくらいの選択肢を選んでいることになります。
もっとも選択率が高かったのは「働いてお給料をもらった時」で49%となっています。したがって、回答者の49%(100名中49名、ほぼ半数)がこれを選んでいることになります。

「その他」の場所をどうするか

次の問い「自分が成人だと実感できない理由は何ですか」にも注目してみましょう。特に注目したいのは「その他」の位置です。
「その他」は、要するに「それ以外の選択肢には当てはまらない、その他の理由」ということです。一般に「その他」は一番下に(縦型の棒グラフの場合は一番右に)置くのが通例です。が、このグラフでは下から3つ目になっています。これはどういうことでしょうか。
この配置の仕方は、おそらく次のような考え方によるのだろうと思います。
まず、実感できない理由が「ある、ない」で分ける。一番下の「特に理由はない」が後者にあたりますね。次に、理由が「ある」を、理由が「言語化できる、言語化できない」に分ける。下から二番目の「答えられない・分からない」は、理由が言語化できないという選択肢にあたります。最後に、「理由があって、言語化できる」が、「お酒や喫煙など・・・」以下の複数に選択肢に分かれていて、これらの選択肢に当てはまらないが自分で言語化できるという回答が「その他」になります。
一見、選択肢の並べ方が複雑であるように感じますが、上述のように三段階に分けて見ていくと、論理的に並べられていることが分かると思います。もちろん、これは私の解釈であって、記事を書いた方がどのように考えられたかはわかりません。

母集団は不明です

最後に、母集団について書いておきます。この調査の母集団をどう設定すればいいのかはよくわかりません。あえて設定するなら、「高卒で就職した1年目の人」ということでしょうが、当然ながらこれに該当する人は毎年変わります。また、今回の調査の標本は、調査主体が開催している研修会に参加した人、ということですから、無作為抽出にはなっていません。よって、この調査結果は、標本である100名の結果、つまり記述統計であって、それ以上に一般化することは難しいのではないかと思います。