趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

「自己啓発」とか、みんなやっているんでしょうかねえ…

「アンケート」ウォッチング 2023年11月18日

今回のネタはこちらです。たった1問だけの調査でいったい何を知りたいのかよくわかりませんが、とりあえず、基本的な誤りについて指摘するところから始めましょう。
ict-enews.net

「その他」という方法はありません

基本的な誤りというのは、帯グラフで「その他」を置く位置が違う、ということです。伝わりますか?
おそらく(調査フォームを見ていないので推測です)、「自己啓発で役に立つツールとして、最もあてはまるものを1つ選択してください」という問に、「書籍、SNS、テレビ、ラジオ、有料のサービス、ポッドキャスト、その他」のような選択肢が設けられていたのでしょう。
このとき、「その他」というのは、「一般に”その他”と呼ばれているツール」ではありません。わかるかなあ。
「何使って勉強してる?」「オレはYoutubeだね」「私は書籍と、Udemyかな」「僕は”その他”ですね」。この最後の発言はおかしいですよね。「その他って、具体的に何なのさ!」って思うでしょ。
「無料のウェビナー」とか「有料のオンラインサロン」とか「スマートフォンアプリ」とか「職場の学習会」とか、そういうものを思い浮かべた人はみんな、さっきの選択肢から適当なものを選びにくいので、「その他」を選ぶことになります。「その他」というのは、こういう、「選択肢には示されなかった具体的な方法」を複数まとめて、便宜的に「その他」と言っているだけです。だから、集計するときは最後におくのです。
記事に使われているグラフなら、選択率のとても少ない「有料のサービス」「ポッドキャスト」「ラジオ」も、その他に含めて、「その他(有料のサービス、ポッドキャスト、ラジオなどを含む)」としても良いかもしれません。

調査概要はふつう

この調査は、「自社調査」とあるので、サービス登録者に何らかの方法で回答を依頼したのだろうと推測されます。やはり、「LINEで案内した」とか「メールで依頼した」とか、はっきり書いてよ、と思いますけどね。
あと、回答者数だけでなく、回収率も併記するべきだと思います。登録者が何名、回答依頼したのが何名、回答したのが何名、こういうのがわかると、どれくらい代表性があるのかの一つの目安になります。

そもそも自己啓発とは

最後に、ちょっとだけ「そもそも自己啓発とは」について。ChatGPT(3.5)によると、「一般的には個人が自らの能力やスキルを向上させ、成長し、より良い人生を築くために努力すること」だそうです。「能力やスキル」とは具体的にどういったことなのか、「成長」をどのような意味でとらえるか、また、それらが「より良い人生を築く」ことにどうつながるのか、なぜそう考えるかなど、いろいろと確かめたいことはあるのですが、ひとまず置いといて。
でも、調査する側としては、自己啓発という語をどうとらえているのか、について、考えをもっておくのが良いのだろうとは思います。広辞苑には意外にも「自己啓発」という見出しはなく、「啓発:知識をひらきおこし理解を深めること」とあります。新明解では、「啓発:(専門家としての観点から)一般の人が看過しがちな問題および問題点について、知識を与えること」とあります。自己啓発とは、新明解が言う「専門家」の役割を自ら担うということなのでしょうか。それとも、ツールにその役割を担ってもらうということなのでしょうか。国語辞典に書かれていることと、一般的な解釈との間には、少々ずれがあるように感じています。