趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

布団に入ると、すぐに眠れるほうですか?

「アンケート」ウォッチング 2023年12月25日

今回のネタはこちらです。調査がどのような目的で行われているのかに、まず注目しましょう。
prtimes.jp
冒頭に次の文章があります。

このデータをもとに3月の「世界睡眠デー」「春の睡眠の日」にあわせた特集および都内ではポップアップイベントを開催し“睡眠課題をもつ”働く女性の消費行動を促します。

要するに、イベントでモノを売るための資料として使いたいということですね。どのような商品やサービスを提供すれば「売れる」のか、に関心がある調査です。そうすると、対象が「会員」であることも納得がいきます。調査結果を「会員」以外に一般化するのは控えましょう。

「睡眠の質」って何?

冒頭の質問は、「ご自身の”睡眠の質”についてどう感じていますか?」です。このままの文章(このままの言葉遣い)で質問したのでしょうか。質問文をきちんと表記することはとても重要だと私は考えていますので、好ましいことです。
結果として、約7割が否定的な回答をしているようです。さて。

偶数選択肢に注意

注意すべきことは、選択肢に「どちらでもない」「わからない」という、判断保留の選択肢がないことです。「ん~、別に考えたことないしなあ…」という方は(人数としては少ないかもしれませんが)、「まあ満足」「やや不満」のどちらかを選択することになりますね。人間、誰だって、寝坊してしまったり、夜中に目覚めてしまったり、すぐに眠れなかったり、という経験はあるでしょう。そういった経験を思い出してしまえば、「やや不満」を選択してしまいそうですね。
それに続いて(だと思いますが)、「今後、”睡眠の質”をよくしたいと思いますか。」と尋ねられれば、肯定的に回答するのはほぼ必然でしょう。要するに、「睡眠の質、満足していませんよね? もっとよくしていきたいですよね?」というストーリーがここで語られているのですね。

そもそも「睡眠の質」とは

ところで、「睡眠の質」とは何でしょう。質の良い睡眠とそうでない睡眠とはどう違うのでしょう。気になるのは、回答者に説明はあったのかどうか、なんですが、報告されていないのでわかりません。
では、「睡眠の質」について、公益財団法人長寿科学振興財団のサイトを見てみましょう。
www.tyojyu.or.jp
ここには、厚生労働省の資料で示されている「睡眠の質の評価指標」が整理されています。たとえば、

  • 規則正しい睡眠
  • 必要な睡眠時間の確保
  • 中途覚醒がない
  • 熟眠感が得られる
  • 日中、過度の疲労感がない

などです。つまり、毎日必要な睡眠時間が確保されていて、中途覚醒せずによく眠れている実感がある、みたいな感じでしょうか。今回取り上げた調査では、睡眠時間が7時間を超えると満足度が高い、と報告されていますから(けっこうきれいな結果です)、上記の評価指標を裏付けるような結果になっていますね。出社時のみ早起きする人は睡眠への満足度が低い、という結果も出ていて、これも上記の評価指標と一致しています。

睡眠グッズはたしかに一つの方法ですが

質の良い睡眠のために、公益財団法人長寿科学振興財団のサイトでは、運動習慣や朝日を浴びることなど、生活習慣のコントロールを中心に開設されています。その中に、快適に眠れる寝具を使う、という項目もちゃんと入っていますから、「快眠グッズ」などを勧めるのはあながち間違いではありません。とはいえ、睡眠の質が低く満足感が得られないことの原因が、寝具だけだとはいえません(そもそも帰宅時間が遅い=残業が長いのが原因、とか、つい寝る前に動画を見てしまうのが良くない、とか。そういえば「リベンジ夜更かし」なんて言葉もありましたね)。「快眠のために、ぜひわが社の製品を!」というマーケティングに、踊らされ過ぎないように、気をつけましょう。