趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

シグマくんのはなし #06

シグマくんの変身術

では、今回から何回かに分けて、シグマくんの変身術についてお話しましょう。「シグマくん」は、とりあえず口に入れてもらった数たちを「合計する」というワザをもっているのですが、そのワザを効果的に使えるように、いくつか変身術をもっています。
みなさんの身近に、統計に詳しい人がいて、シグマくんの入った数式をあれこれ変形させて、「ほらね」とか言って見せてくれることが、1日3回くらいは必ずあると思います。
・・・ごめんなさい、嘘ですね。ないですよね。でもそういうときが、もしあったとしたら、その「詳しい人」が、シグマくんの変身術をいくつも使っていることは十分にあり得ることです。これからご紹介する「変身術」は、「詳しい人」に一歩近づくために、どうしても必要なアイテムです。これは間違いありません。

変身術1:分身の術

はじめに、分身の術についてお話します。おそらくこれが一番易しいと思います。こんな設定を考えましょう。あ、話をより簡単にするために、ここでは消費税のことは考えません。

設定:5人の子ども(あき、いく、うみ、えな、おと)を連れて、スーパーにお買い物に行きます。子どもたちに、それぞれ好きなおやつを選んでもらいます。おやつの代金の合計を、「シグマくん」にお願いしましょう。

では、子どもたちにおやつの値段を教えてもらいましょう。

おやつの値段を合計する

「シグマくん」を使って、おやつの値段を合計するのは、どう書くのでしたか?
(考えるための空白行)
はい、そうですね。数たち(ここでは、5人それぞれのおやつの値段)の集まりを書いておいて、「おやつの値段」と名前をつけます。そして、シグマくんに「おやつの値段」と教えてあげればいいのでした。

では、いよいよ分身の術の出番です。

ジュースも買いたい!

設定:5人の子どもとスーパーにお買い物に行き、それぞれ好きなおやつを選んでもらいました。が、ジュースもほしい、というので、5人はおやつセット(おやつ+ジュース)を買いました。おやつセットの代金の合計を、「シグマくん」にお願いしましょう。

ジュースのねだんも、教えてもらいましょう。

さきほどと同じように、シグマくんを書いてみましょう。

セットの値段を自分で足し算するの?

でも、ちょっとモヤモヤしませんか? おやつセットの値段は、いつ、誰が計算したのでしょうね。いつの間にか計算されていました。「いつの間にか計算されていた」セットの値段を使って、
「”あき”のおやつセットの値段を計算する→数たちの集まりに書く、”いく”のおやつセットの値段を計算する→数たちの集まりに書く、・・・」
とやっても、計算は正しくできます。でも、こんな風にしたらどうでしょう。
「おやつの値段だけを数たちの集まりに書く→シグマくん合計して!、ジュースの値段だけを数たちの集まりに書く→シグマくん合計して!、おやつの合計と、ジュースの合計を足し算して、はい、終わり!」
図にするとこんな感じです。ね、すっきりしませんか?

具体的な数で確かめよう

いまやったことを、具体的な数で確かめておきましょう。
左が、一人ずつセットの値段を計算してからシグマくんに合計してもらう方法。右が、おやつとジュースと別々にシグマくんに合計してもらってから足し合わせる方法です。どちらの方法でも、5人分のおやつとジュースの値段をちゃんと合計できていることを確かめてください。

数学の得意な方にはくどく感じられるでしょうが、こうして具体的な数値に置き換えて、nが小さい状況で確かめてみることは、とても大事な作業です。

数式的に表現してみよう

ちょっと数式っぽく書いてみると、こういうことです。
 \displaystyle \sum_{i=1}^n (おやつセット_i) = \sum_{i=1}^n (おやつ_i+ジュース_i) = \sum_{i=1}^n おやつ_i + \sum_{i=1}^n ジュース_i
真ん中の式で、(おやつ_i+ジュース_i)と、カッコの中に「+」が入っていることに注目してくださいね。カッコの中に「+」があるので、上で図解した①の方法、つまり、「(おやつとジュースを一人分ずつ足し算)して、シグマくんで合計」という式です。でもこれは、右側の式のように、2つのシグマくんに「分身!」させることができます。これが、図解した②の方法、つまり、シグマくんでおやつの値段を合計、シグマくんでジュースの値段を合計、最後に「+」をして完了、です。

うーん。あんまり変わらないような。という方もおられるかもしれません。いいですよ。どんな風に計算しても、合計が正しく計算されることが一番大事です。でも、こうして「分身!」できることを知っておくと、複雑な式がとても簡単に整理できることがあります。でもそのためには、他の変身術も知っておく必要があります。

※本記事は、私が過去に書いた note をリライトしたものです。
note.com