趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

シグマくんのはなし #02

シグマくんは数を咀嚼して合計を答える

さて、総和記号「シグマくん」のイメージが少しわかっていただいたと思いますので、ちょっと練習をしてみましょう。
まずノートに「シグマくん」を書いてください。少し大きめに書いていただくといいかと思います。そして記号の上の横線と下の横線の間に数字を3つ縦に並べて書いてください。例えば2,3,5と縦に3つ並べるのです。そして、「シグマくん」の右にイコールを書いてそこに答えを書くわけです。こんなふうにです。

ここには「+」も「-」も書いていません。が、最初に書いた記号は「シグマくん」(総和記号)ですから、これは「3つの数を全部足してください」という意味を既に表しています。ですから答えは、2と3と5を全部出して10ということになります。ちょっと練習してみてください。

シグマくんに目や手を付けてみたりしてふざけていますが、多少でも親近感をもっていただけたらと思います。シグマくんがいくつかの数をお口にくわえて、それをパクっと飲み込んだら、合計を教えてくれる、そんなイメージです。
今は数が3つか4つですが、もっと数が増えたら、シグマくんのあごがはずれるかもね、なんて想像していただけたら大満足です。次はその話です。

シグマくん、数を100個のみこむ

ところで、こんなふうに、3つや4つの数を足すのであれば、何も総和記号なんていかつい記号をつかわなくてもいいじゃないか、と思われますね。それはその通りなんです。

足す数が分からないという不思議な足し算

実は、この記号が活躍するのは、足す数が3つや4つのときよりも、100個とか1000個とか、あるいは、「足す数が実際に何という数なのかわからないとき」とか、「足す数がそもそも何個あるのかわからないとき」なんですね。そんな足し算なんてあるの? そんなの意味ないだろう、と思われるかもしれませんが、意味あるんですね。といっても、これはもう少し後になってからお話しようと思います。まず、足す数がもっと多い時、100個とか200個とかの場合について、考えておきましょう。

100人の回答を合計する

足す数が多いのは、統計でこれを使う時です。統計で、たとえば100人の人に調査に答えていただいたときには、100人分の回答を合計するという計算が必要です。
いま、勝手に「合計する」という言葉を使いましたが、回答を計算できる数に直してから合計するということですね。
そんなことできるのか? と思われるかもしれませんから、少しだけ補足します。たとえば、「今のあなたの幸福度を、これ以上ないくらい不幸な状態を0点、これ以上ないくらい幸福な状態を10点として、点数で表してください」みたいな質問をしたとします。こういう感じの調査って実際にあるんですけどね。そうすると、私は6点、私は7点、みたいに数で答えてくださるわけです。そうすると、これらを合計して人数で割り算してやると、平均点が出ますから、今回調査に答えてくれた人たちは、平均的に何点くらいの幸福度なんだなあ、とわかるのです。

いよいよ100個の数をのみこむ

さて、話を戻しますと、たくさんの数を足すとき、たとえば100個にしておきますと、総和記号「シグマくん」の中に、100個の数が縦に並ぶわけです。こんな感じですね。

さすがに無理があるので横にも並べてしまいました。シグマくんのあごが外れそうですよね。ていうか、数が読めない。そして、実際、こんなふうに書かれても、計算しやすくなりませんし、ノートは無駄に使いますし、いいことはないのです。そこで、書き方を少し工夫します。

数の集まりに名前をつけよう

こんな書き方をします。足す数をぜんぶ1行に(1行で入りきらない時はもちろん2行とか3行とかになります)並べてしまって、それに名前をつけます。足す数たちの集まりに、名前をつけるのです。ここでは「数たち」としておきましょう。
そして、「シグマくん」の中には、その名前、ここでは「数たち」とだけ書いておくのです。こうすることで、「数たち」という集まりに入っている数を順番に取り出して、どんどん足していってくださいね、という意味を表すことにします。こうすると、足す数の個数がどんどん増えていっても、「シグマくん」にはそれらの集まりの名前だけを書けばいいので、書き方が簡単になるのですね。というわけで、こんな風にします。

計算自体は簡単ですから、すぐにできるだろうと思います。大事なのは、ここで、「合計を計算したい数の集まり」に、名前をつけたことです。名前を付けることの良さは、「合計を計算したい数の集まり」を、その名前で呼ぶことができるというところです。
さきほど例に挙げた、「幸福度」を点数で表したものが100人分あると思ってください。たとえばそれが、「6,7,6,6,8,・・・」となっていたとしましょう。これを合計するときに、「6と、7と、6と、6と、8と・・・を合計する」とか言いたくないですよね。そうではなくて、「幸福度の得点を合計する」といったら簡単だし、数を言い間違えることもありません。何より、「その数たちが何を表した数なのか」がわかりやすいのがいいですよね。

XYも、数の集まりの名前

統計学で、よくXとかYとかの文字が出てきて、また記号ばっかりで書いて~!と、いらいらしたことはありますか? お気持ちはわからなくもないですが、これらも、数の集まりの名前と考えましょう。でも、「幸福度の得点」みたいに意味が分かりやすい名前ではないですね。
もっと意味のわかる名前をつけてくれたらいいのに。それはその通りなのですが、こう考えてみましょう。「好きな名前に、好きなように言い換えられるように、あえて特徴のない名前にしている」のだと。だから、Xとか出てきたら、「うーん、これはファミレスのメニューの、美味しさ点数ということにしておこう」とか、Yとか出てきたら、「よし、これは毎朝目覚めたときの、私の気分の良さの点数と考えておこう」とか、好きなように読み替えればいいのです。そして、「それって、本当に統計をとるとしたら、どうやって数字に直せばいいんだろう?」と考えが膨らんだら、あなたはもう心理学者だし、統計家です。