趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

難しいことを楽しむ余裕を持ちたい

ここで紹介している書籍はこちらです。
www.hanmoto.com
いろいろ興味深い話がありましたが、その中から少しだけ。

分散は「ワクワク感」を表している

確率変数についての話で、分散というのは「ワクワク感」を表現しているのではないか、という話がありました。
3種類の宝くじがあり、いずれも1枚100円で、1000万枚売り出されるとします。

  • 宝くじAは5本だけ当たりで、当せん金は1億円。
  • 宝くじBは10本中1本が当たりで、当せん金は500円。
  • 宝くじCはすべてのくじが当たりで、当せん金は50円。

期待値を計算すると(桁が多くてやっかいですが)どれも50円になります。
でも、Cのくじは誰も買いませんよね。100円で買って必ず「50円当たりです!」とか言われても、何も面白くない。Bもいまいちワクワクしません。「もしかしらた1億円当たるかも」という「ワクワク感」はAにしかありません。この「くじとしてのつまらなさ」や「ワクワク感」をどうにかして表現できないものか。

分散は偏差の二乗を平均する

そこで、分散の登場です。分散は偏差(期待値との差)を二乗して平均したもので、単位をそろえるために、分散の正の平方根である標準偏差をよくつかいます。計算するとそれぞれ(桁が多くて、計算がひときわやっかいです)、

となります。ということで、宝くじAの「ワクワク感」が、見事に表現されてません? というお話でした。なるほど、こういう説明も面白いですね。

問題を自分の世界のものにする

著者の一人である曽布川(そぶかわ)さんは、問題を自分の世界のものにするために、どうしたらよいかについて、繰り返し述べています。

(公式を何度でも見ながら手を動かす、ということを)繰り返していくと、数列や対数の世界が「自分の世界」になってくる。つまり、公式を無理に暗記しなくとも、自分のものになる。おのずと「数の世界に対する見通し」が立つようになってきます。(強調は引用者)

すぐに解ければそれはそれで楽しいというのもあるかもしれませんが、まずはこうやって時間をかけてじっくり状況を把握して、それこそ自家薬籍中のものにしてしまうのが大切(強調は引用者)

受験勉強の癖で、ついつい「最短距離で」「最小限の努力で、コスパよく」といったことを考えてしまいませんか?

表現は異なりますが、すべて同じことを言っているように私には読めました。そういえば、小杉先生の本にも、こんな注がありました。

とある分析屋さんは,データの可視化に1 週間ぐらいかけて,何百枚というグラフを眺めながらどうやって分析するかの筋道を見つけ出すと言ってました。(小杉(2023), p.29, 脚注14)

そうかあ、もっと勉強している内容を、じっくり楽しむ、あれこれいじくりまわしてみる、そんな余裕を持てたらいいなあ、と思うのでした。