趣味の統計

心理統計のはなし(偏差への偏愛ともいう)。Web上に散らばっている「アンケート」へのつっこみ。その他。

小塩先生の統計学講義を書籍で

読書の記録

紹介する本(たち)はこちらです。著者は小塩真司(オシオ アツシ)先生早稲田大学教授です。
www.hanmoto.com
この本はシリーズの2作目で、1作目は「大学生ミライの統計的日常 : 確率・条件・仮説って? 小塩 真司(著/文) - 東京図書 | 版元ドットコム」、3作目は「大学生ミライの信頼性と妥当性の探究 小塩 真司(著) - ちとせプレス | 版元ドットコム」です。1作目だけは紙媒体のみ、あと2冊はKindleもあります。

ストーリーでわかる…

3冊の共通の表題として、冒頭に「ストーリーでわかる心理統計」と書かれています。大学に入学したミライさんが、友だちやゼミの先輩、心理学の先生と話をしながら、統計について理解を深めていくという構成です。
小説のような読みごたえを期待するものではありませんが、ああ、小塩先生はふだんの授業で、こういうたとえ話をつかいながら講義をなさっているのかなあ、という雰囲気は伝わってくる気がします。講義を受けたことがないので、本当かどうか知りませんけどね。

たとえば、こんな感じ。

同じ科目名の授業で、昨年と今年とで単位を落とした人の割合が違う。今年の先生が厳しいから、合格率に有意な差があるのでは? と考えて、合格者数のカイ二乗検定や、平均点のt検定をしてみた、という話のまとめの部分。(当然ですが、こういうデータを学生が手に入れることが可能だとは思いません。書籍のための設定だと思われます。)

「もちろん,教員の要因がまったくないわけではないとは思うけどね。物事は多面的で多層的なんだ。何か1つだけの要因で完全に決定されることなんて,現実の世界ではめったに起こらないと思っていた方がいい」
先生は,もちろんこのことを知っていて,あえて私たちにカイ2乗検定やt検定をさせたのだろう。そして,このことを私たちに教えようとして。
「だから,因果関係を明らかにするのはそんなに簡単なことじゃないんだ。こういった問題は,これからも出てくるだろうね」

小塩真司.大学生ミライの因果関係の探究ストーリーでわかる心理統計(Kindleの位置No.935-940).株式会社ちとせプレス.Kindle版.

合格率の差を、先生の厳しさに帰属させるのは、学生にとってとてもわかりやすい考え方だと言えます。しかし、それ以外にも、こんな要因も考えられる、こんな要因もあり得る、と複数例示したうえで、引用した結論に至っています。統計って、ソフトを使うと簡単に計算できて、なんでも分析できる気になってしまう学生は毎年いるという話を聞きます(私もそうだったかも)。

分析ツールで何でもわかると思うなよ。

という、小塩先生からも厳しい教えなのだと思います。たとえ書籍という形にすぎないとしても、こういう先生に教えていただけるのはありがたいことだと思うのです。